1.事業目的および内容
ウクライナ避難民は戦争トラウマという背景を持っており、いまだ戦争が続く中、毎日トラウマを引き起こす刺激にさらされ続けている状態である。そのような中で心も身体の健康を保つためには、どのようにして心と身体のケアを行っていったらよいかについて学ぶ必要がある。そこで、日本財団のウクライナ避難民支援助成プログラムの支援を受け、ウクライナ避難民を対象としたセミナーを開催し、セルフケアスキルを身につけることを目的とした。
当初は、トラウマを受けた後の心と身体の変化について、知識を習得するセミナーを企画していたが、ウクライナ避難民の方々のメンタリティや国民性から見て、若干の改定をしたほうがいいのではないかと考えた。ウクライナの方々は幼少期より絵や音楽など様々な芸術に触れる機会を多く持っており、感性がとても豊かであることから、知識習得よりも芸術を介した手法を用いたほうが効果があるのではないかと考え、「アートセラピー講座」を開催することとした。
https://www.mhea.or.jp/information/info_309.html
2.方法
「アートセラピー講座」はセルフケアや、親子・グループなどでもできる方法を習得できるようにした。また、書道等の日本文化を用いた手法を取り入れた。なお、日本でアートセラピー提供実績のある心理カウンセラーが一緒に受講することで、日本人との交流や講座内で日本人心理カウンセラーからのサポートを受けることができるようにした。
ウクライナ避難民の方々には必要な教材は全心連ウクライナ「心のケア」交流センターから発送し、無料で受講できる。参加の仕方も、渋谷およびオンラインでのハイブリッド形式で行うことにより、全国のウクライナ避難民が参加でき、地域差をなくす工夫をした。すべてのプログラムを学び、所定の基準を満たしたウクライナ避難民には、全心連から資格発行を行い、習得した技術を仕事につなげられるような工夫も行った。
期間:2024年1月~2024年3月
場所:ウクライナ「心のケア」交流センター(東京・渋谷)
方法:ハイブリッド(現地およびオンライン開催)
対象:ウクライナ避難民、日本人心理カウンセラー
3.実施状況
120名近くのウクライナの方々からの受講申し込みがあり、日本全国だけでなく、ウクライナ本国の方々やポーランド等に避難されている方々からのお申し込みもあった。
全10回のプログラムのうち、2024年3月末日までで計5回のプログラムを終了した。
4.効果など
120名近くという人数はもちろんのこと、全国各地域のウクライナ避難民の方々にとどまらず、海外のウクライナの方々からもお申し込みがあったことは予想以上であった。特にウクライナ本国にいるウクライナの方からは、「今日はミサイル攻撃が多い日で、気持ちが落ち着かなかったけれど、アートセラピーの受講日だったので気持ちを落ち着けるためのきっかけになってよかった」という声を聴くことができた。
ウクライナ避難民の方々が描くアートには、アートセラピーに関する知識がない一般の方でもわかるような形で、戦争トラウマを感じさせるものがとても多く見られる。講座内でのセラピーを通して、トラウマやストレスが徐々に和らぐ様子も見受けられたり、その方が持つ内面的な力が表現されたりもしている。受講後の感想では、この講座を受けることでセルフケアになっているというコメントも多くあり、アートセラピーを通して感情の表現や浄化、気分の切り換え、精神安定などが図ることができていると考えられる。
言葉を介さなくてもできる手法であるアートセラピー実施にあたっては、ウクライナ避難民のメンタリティにじゅうぶん、配慮した形で行っている。実施する側としては引き続き、ウクライナ避難民の方々のメンタリティを確認しながら、注意深く実施していく。